発酵というと味噌やしょうゆ、チーズ、ヨーグルト、パンといった発酵食品のイメージが強いかもしれませんが、実は食品以外にも様々な分野で使用されています。
私たちにとって体にいいだけではなく暮らしにも欠かせなくなっている微生物による発酵技術。どんな分野で活躍しているのか、こちらでは8つの用途を解説していきます。
【目次】
発酵食品以外でも微生物が大活躍の9つの分野とは
そもそも発酵とは、微生物の働きによって有機物質が分解されて、人にとって有益な結果になる反応をいいます。その微生物の働きを活用した発酵技術によって、これからお伝えする9つの分野で欠かせないものとなっているのです。
ビタミン(化学製品)
一部のビタミンは微生物の発酵によって生産されるため、その発酵技術を応用して工業的なビタミンの生成が行われています。以下に発酵技術で生成されているビタミンの種類と微生物群、微生物名を記載します。
種類 | 使用微生物群 | 微生物名 |
---|---|---|
VB2 | 細菌,菌類等 | Ashbya gossypii、 Bacillus subtilis |
VB12 | 細菌 | Propionibacterium freudenreichii、 Pseudomonas denitrificans |
VC | 細菌 | Gluconobacter、 Ketogulonicigenium vulgare |
※ビタミンCは化学合成との併用により生産される
ちなみにビタミンAの前駆物質であるβカロテン、カロテノイド系のアスタキサンチンも発酵技術により工業生産されています。
種類 | 使用微生物群 | 微生物名 |
---|---|---|
βカロテン | 微細藻類,酵母,細菌 | Dunaliella salina、 Blakeslea trispora |
アスタキサンチン | 微細藻類,酵母,細菌 | Haematococcus pluvialis、 Phaffia rhodozyma |
アミノ酸(化学製品)
味覚の基本には甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の5つがあり、うま味は池田菊苗博士が昆布から取り出したグルタミン酸によって定義されました。池田博士はグルタミン酸を主成分とする調味料の製造特許を取得し、日本十大発明家の一人に選ばれています。
グルタミン酸以外のうま味成分には核酸であるイノシン酸とグアニル酸があり、イノシン酸は鰹節、グアニル酸は乾燥シイタケに含まれています。
現在はサトウキビからとれるキャッサバ、トウモロコシ、糖の蜜などを原料にして発酵技術を介してグルタミン酸が生成されていたり、また核酸も発酵法によって生産されていたりするのが現状です。
このほかにも発酵生産されたアミノ酸は、アミノ酸輸液や栄養剤などの医薬品やリジン、スレオニン、トリプトファンなどの飼料添加物、サプリメント、N-アシル-グルタミン酸などの界面活性剤として利用されています。
酵素
酵素とは生物が生体反応を触媒するたんぱく質をいい、アミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼなどがあります。
私たちの体にも自然に存在し、たとえばアミラーゼは唾液や膵液に含まれていてデンプンを分解し、プロテアーゼであるペプシンは胃液に含まれていてたんぱく質を分解し、リパーゼは膵液に含まれていて脂肪を分解します。
これらの酵素は人だけではなく微生物にも存在しているため、工業用酵素は微生物から生産されることも多いのです。工業用として生産された酵素の3分の1は洗剤として活用されています。
デンプン汚れを落とす洗剤にはアミラーゼ、たんぱく質汚れを落とす洗剤にはプロテアーゼ、油脂汚れを落とす洗剤にはリパーゼが含まれていて、それぞれの特性が生かされているのです。
バイオマスエネルギー
バイオマスエネルギーとは、生物由来の資源である生ゴミや建築発生木材、家畜の糞・尿、下水汚泥、パルプ工場廃液、未利用材、エネルギー生産を目的に製造されるとうもろこし・菜種などを活用してエネルギーを生産することをいいます。
生物資源を利用する技術には直接燃焼やガス化、液化などいくつかの方法がありますが、そのなかの一つに発酵技術が存在し、発酵過程を経たものはバイオエタノール、バイオブタノールとして利用されるのです。
これらはCO2排泄量を減らして地球温暖化を低減するため、主に輸送燃料であるガソリンの代替燃料として利用されています。
バイオマスプラスチック
バイオマスプラスチックとは、上記と同じく生物由来の資源を発酵させて生産したバイオマス技術の一つです。バイオエタノール、バイオブタノールと異なる点は、エネルギー利用ではなくマテリアル利用される点になります。
目的は同じで、CO2排泄量低減による地球温暖化防止対策です。現在のプラスチックの原料は主に石油で、使用後に自然分解されずに残り続けてしまい、たとえば海洋プラスチック問題などの社会問題に発展しています。
一方でバイオマスプラスチックの使用後は、自然環境の微生物によって分解されるため、社会問題の解決につながるだろうと考えられているのです。
医薬品
医薬品の生産にも微生物の発酵技術が活用されており、たとえば抗生物質やプラバスタチン(コレステロール合成阻害の高脂血症薬)、マイトマイシンやブレオマイシン(抗がん剤)、タクロリムス(免疫抑制剤)、タカジアスターゼ(消化薬)などが該当します。
初めて発見された抗生物質は青カビから造られたペニシリンです。また2015年のノーベル賞を受賞した大村智博士は放射菌からエバーメクチンという抗生物質を発見しています。
柿渋(かきしぶ)
名前だけ見ると、食品の渋柿(しぶがき)と間違ってしまいそうですが、柿渋は渋柿の未熟果汁を発酵・熟成させて生産したもので、塗料や染料として活用されています。特徴は柿タンニンを多く含んでいるため防腐効果や防水効果の役割も期待されている点です。
柿渋が利用されてきた起源は十分には解明されていないようですが、7世紀末の藤原宮跡からは柿の種子が見つかったといわれています。
戦国時代には渋紙製の紙衣陣羽織を上杉謙信がまとっていたり、江戸時代には魚網、紙子、醸造用の絞り袋、建築塗装、和傘や団扇の生産に活用されていたりしたことが明らかになっています。
藍染
藍染とはその名の通り藍で染める技法をいい、ジャパン・ブルーとしても世界中を魅了しています。藍とはタデ科の植物の一つで、この藍を発酵させてできた染色液で布やシャツを染める技法が藍染です。
藍染の布の歴史はかなり古く、紀元前3000年頃のインダス文明の遺跡から発見されています。日本に伝来したのは飛鳥・奈良時代といわれており、衣類を藍染して身にまとったりしていましたが、戦国時代より前からは貴重な民間薬としても使用されたと残っています。
しかし、藍は第二次世界大戦中に食料が優先となり栽培禁止となってしまいました。(現在では復活を遂げています。)
まとめ
発酵技術の用途をご紹介しましたが、いくつご存知でしたでしょうか。すべてをご存知でしたら、発酵マニアといっても過言ではないでしょう。
くどいようですが、微生物の発酵は私たちの生活と切っても切れないものとなっています。ぜひ生活のなかで見つけた際には、話のタネにされてください。
発酵食品のいいところは善玉菌が含まれている点です。善玉菌が増えて腸内環境が整うと免疫機能の向上やメンタルヘルスの改善、便通の改善など嬉しい恩恵を受けられます。
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【出典】
・発酵に関する技術と特許について
https://jpaa-patent.info/patent/viewPdf/3377
Microbiol. Cult. Coll. Dec. 2013 Microbiol. Cult. Coll. 29(2):91─ 96, 2013|
・微生物によるビタミン生産- ビタミン命名100周年 -
https://www.jsmrs.jp/journal/No29_2/No29_2_91.pdf
・国立科学博物館 技術の系統化調査報告|酵素の生産と利用技術の系統化
https://sts.kahaku.go.jp/diversity/document/system/pdf/056.pdf
・公益財団法人地球環境産業技術研究機構|バイオ研究グループ
https://www.rite.or.jp/bio/biofuels/post_5.html
・農林水産省 食料産業局バイオマス循環資源課|バイオ燃料生産拠点確立事業について
https://www.maff.go.jp/j/biomass/b-ethanol/pdf/02-1_siryou2-1.pdf
・織 朱實 上智大学大学院地球環境学研究科教授|プラスチックごみのなにが問題なの?
https://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-202102_07.pdf